会社分割による既存事業売却で、転業に成功したパチンコホールの事例(2)

前回のメルマガではパチンコホール事業・飲食事業・不動産事業を行っていた
A社のM&Aに至った経緯を紹介させていただきました。
 
今回のメルマガではA社がM&Aの際に行った会社分割のポイントと、
会社分割を行ったその後のA社について紹介させていただきます。
  
会社分割には、吸収分割と新設分割の大きく2つの形態がありますが
A社は新設分割による“2段階の手続き“を行いました。
吸収分割なら1回の手続きで分割移転が完了するのにも関わらず、
なぜ、2段階の手続きを採用したのか、その理由は大きく2点ございます。
 
 
1.買手において、買収精査(DD)期間が短かったため、
  新設会社(新設分割)がワンクションの受け皿(リスクヘッジ)となった。
 
2.売手において、税制上適格要件をクリアするために、
  吸収分割よりも新設分割がより安全と判断した。
 
 
1の手続期間の短縮について、通常、「基本合意調印→買収精査(DD)→実行スキーム検討
→最終契約調印→会社分割手続→分割登記・クロージング」の一連の流れが終わるまで
最低半年程度を要しますが、今回はその半分の3カ月間で完了する必要がありました。
 
そのため満足な買収精査(DD)期間を確保する事が難しく、
また、最も時間を要する会社分割の手続きを同時並行で進める事が必要となりました。
 
更に、パチンコホールは会社分割と営業許可引継ぎを都道府県公安員会より
許可を取る必要がある事や、売上高200億規模のM&Aは公正取引委員会による
事前審査が必要になる事、更に、商標など知財に関する行政手続、
附帯飲食施設の保健所届出など、多岐に渡る手続きが発生します。
 
そのため、基本合意時に合意内容について詰めておく必要がありますが、
基本合意調印後の段階から並行して会社分割の手続きに入る必要があるため、
買手売手双方のリスクヘッジとなる新設分割を選択する事となりました
(最悪ブレイクとなった場合も新設会社に移転する事で売手側のリスクヘッジになる)。
 
2の税制上適格要件のクリアとは、会社分割は、
取引行為ではなく組織再編行為である(非課税取引)という点から求められている
税制上の判定要件です。
 
そのためには、時価移転ではない事や従業員の概ね80%以上が
引き続き業務に従事している事などが挙げられるます。
また、以前は株式以外の交付はNGでしたが、会社法改正により金銭の交付が認められました。
 
本件の譲渡対価は数十億円の規模で、
移転する店舗数は9店舗(土地建物含む)となりましたので、
税制上適格要件をまずクリアする事が必要となりました。
 
要件がクリアできず非適格と判定された場合、
時価による譲渡損益を認識する事が必要となります。
 
また、土地建物の移転について不動産取得税が発生した場合、
本件の試算では1億円を超える税負担が発生する事が判明していました。
 
「新設分割にて新設会社を設立し、その後、新設会社株式を第三者に譲渡する」
というスキームについて、県税事務所へ概要説明を含む事前照会を実施しました。
会社分割の取り扱いがさほど多くない特に地方の県税事務所では事例が少ない事もあり、
適格要件の判定を得るまで数回の説明を要しました。
 
そして、最終的に適格要件による新設分割が認められ、
その後の株式譲渡をもってクロージング完了となりました。
 
〇M&A後の譲渡資金の使い道と業種転換
会社分割によるホール事業の譲渡後、譲渡資金を得たA社は、
別事業であった飲食事業と不動産事業を存続事業とし、業種転換を実現しました。
また、売却前数十億円あった借入金が消え、負債と個人保証のプレッシャーから解放されました。
従業員は希望者全員の引継ぎが完了し、ホール業界大手の従業員としてあらたな出発と
目標を持たれて活躍されています。
 
日々の経営の中で、気づけば近視眼的となり、現在の事業環境のみで判断する傾向がありますが、
業界ライフサイクルの中で【10年先の自社の姿を想像する】機会になれば幸いです。
10年先も現在の事業で十分やれる自信があればM&Aを成長戦略として
取り入れていくべきでしょう。
 
他方、10年先までやっている自信がない場合は、
余力が残ってるタイミングで次なる成長戦略を模索する必要があるかもしれません。
成長戦略としてのM&Aと、出口戦略としてのM&A、
いずれもM&Aは目的ではなく“ツール”でしかないので、
M&Aの目的をまず明確にして欲しいと思います。 
 

株式会社船井総合研究所

M&A・事業承継グループ

グループマネージャー

平野 孝

メールマガジンの一覧へ
このメルマガの配信を希望する
事業承継・M&Aに関するお問合せをする