会社の承継・収益向上を目的とした事業売却

■事業売却とは

 
(1)コア事業に集中する環境を作るために
コア事業に集中する環境を作る方法の1つとして、「M&Aによる不採算事業・不採算店舗の整理・売却(カーブアウト)」があります。一般的なM&Aは当たり前のように「会社を全て売却する」というものですが、最近では「一部の事業部門、一部の店舗の売却」というニーズが非常に高くなっています。
 
①不採算の事業部門・店舗を売却することでコア事業・コア店舗の経営を健全化させる
②経営者の思い入れの薄い事業部門・店舗を売却して、思い入れの強い事業部門・店舗を伸ばす
③収益の出る事業部門・店舗を売却することで資金調達をし、急場の資金繰りの悪さを乗り切る(これは決して、いい手段ではありませんが・・・)
 
それぞれの特徴として
 
①はニーズが高いですが、買い手が探しづらい
②は買い手は探しやすいですが、売り手側は資金繰りの一時しのぎでしかなく、買い手に足元を見られ、買い叩かれるケースが多い
③が一番、バランスよく、お互いにWINーWINになりやすい
 
というような感じです。
 
また、「不採算部門・不採算部門」を売却した後、「その売却によって得た資金」で、コア事業を更に伸ばしていくために、別の会社の事業部門・店舗を「買収」するということも可能になり、実際にそのようにしている企業も増えています
 
(2)資本と経営を分離するために
事業承継において、子息などが後継者にいなく、従業員の誰かに会社を継がせる場合、一番の課題は「社長業は継がせることはできても、株式の承継が難しい(できない)」というものがあります。特に土地や建物に資産価値が高い会社の場合はそれが顕著です。その際には、「資産を保有する会社」と「事業を運営する会社」に分けて(分割して)、それぞれを別々に承継させるという方法があります(細かいスキームに関しましては本文では省かせて頂きます)。それによって、「事業を運営する会社」を財務的に身軽にして、子息以外の第三者(従業員など)に継がせることができたりします。
これらのように「M&A」は経営戦略の1つとして活用されています。
 
 

■会社の承継を目的とした事業譲渡のパターン別とそれぞれのメリット・デメリット

 
事業譲渡にはいくつかのパターンがあります。それぞれに事情に合わせてその方法を選択する必要がありますが、それぞれ、メリット・デメリットがあります。それを整理すると下記のようになります。
 
 

 
 

■事業売却の金額はどれくらい?

 
会社売却(=株式売却)と事業売却は違います。
「会社売却=その会社の所有権であるオーナー持分の株式の売却」と「事業売却」の違いは「事業売却」は売り手の会社の持つ「営業権」「顧客網」「人財」といった特定の「営業資産」「営業に必要な不動産」等のみを売却することで株式そのものを残すということになります。
売手が「価格」を考える際、大概、以下のケースが多く見られます。
 
・別事業にチャレンジするために、いくらの資金が必要だ。
・借入金を清算するために、いくらの資金が必要だ。
・これまでの苦労を考えると、この程度の資金は最低欲しい。
 
他方、買手が「価格」を考える際、大概、以下のケースに収斂されます。
 
・買収後の収益や人材等を考えると、この程度の価格だろう。
・同業他社の取引事例から考えると、この程度の価格だろう。
 
初期の立ち上げから現在まで事業に邁進された売手は「過去と現在」に重きを置く傾向がありますが、他方、事業を引き継ぐ買手は「将来」に重きを置く傾向があります。
この重きを置くポイントの違いこそが、売手と買手の価格差を生む根本理由と言えます。買手は、M&A投資資金をいずれかの時期に回収する必要があり、あくまでその源泉を「買収後の収益」に期待するのが一般的な目標となります。また、取引事例をもとにした市場価格も、供給不足等によるプレミアムはありますが、買手が将来収益をもとに評価をした個別事例の積み上げであると考える事が出来ます。
 
 

■事業売却の成功事例

 
【事例①】
業績好調の今だからこその決断。埼玉県の写真館がM&A売却を実行した理由。
 
<企業概要>
エリア:埼玉
県業種:写真館事業、不動産事業
年商:約1億円(2018年現在)
社員:9名(役員除く、2018年現在)
 
<事業の特徴>
地域密着型で商圏内で圧倒的な知名度があり、完全貸し切り型で他社との差別化を実現。撮影データはもちろん、フォトブック等の周辺商品の販売に注力し収益体質を実現。
 
<M&Aに至った経緯・目的>
当該案件の目的は「事業のトランジット」でした。
元々カメラマン職人だった前代表は、写真館をローコストで複数店舗展開していく間に、
①内装工事の面白さ
②誰でも子どもの写真を可愛く撮れる設備設計の重要性
この2点に気付き、高めてきました。
 
2~3拠点目の開設に当たり、内装工事を自前で取り組んでいたこともあり、リノベーション事業の方が前代表にとって面白い事業で、今後より注力していきたい事業へと変わっていきました。幸いなことに営業利益率約20~30%という高収益体質であったこと、経営者が変わることが事業継続に与える影響が細小であったことが、比較的スムーズにM&Aを進められた要因でもありました。
結果的に写真館事業の譲渡益を手元にして、リノベーションを中心とした不動産事業への事業トランジットを実現することができました。
 
<船井総研の事業売却への関わり>
当該案件における船井総研の立ち位置は仲介でした。
売手企業から買い手候補先を探すところからご相談いただいたのがきっかけでした。買手企業は、写真館事業への新規参入であったという背景もあり、仲介として携わらせていただく形になりました。
譲渡企業の事業特性や強みの明確化、スキーム、譲渡対価の算出と根拠の整理、スケジュール、双方のToDo管理、契約書関連などM&Aに関する概ね全ての実務をサポートさせていただきました。
 
<事業売却成功のポイント>
クロージングに際して、価格や実施期間、EBITDAマルチプルなど、重要なポイントは多々ありますが、当該案件はスキームが1番のポイントでした。
前項の通りで、売手企業はひとつの会社の中に写真館事業と不動産事業という2つの事業を営む状態で、活用したのは「分割型分割」というスキームです。
通常の分社型分割でれば、分割承継法人の株主は分割法人に帰属しますが、このスキームを活用すると、分割承継法人の株式をオーナーに現物配当として回すことで、オーナーが完全支配する兄弟会社が誕生します。
 
 
【事例②】
とある整骨院での案件に関して、買い手をS社、売り手をP社とします。S社の今回のM&Aに関しては、買い手であるS社と売り手であったP社の双方の思惑が一致してはじまったものです。S社としては整骨院の拠点拡大と人財確保という思惑があり、売り手のP社は整骨院以外にもう一つの事業を展開しています。売り手のP社側からみると、4院で自社の力では競争力のなくなってきた整骨院を売却し、今後、成長が見込まれるもう一つの事業に人的・資金的な経営資源を集中することで会社トータルとしての成長戦略が描きやすくなりました。切り離すことになった整骨院4院のスタッフもより規模が大きく経営力のあるS社に合流することで待遇面の向上や活躍の場が増えます。
P社から整骨院4院を買収したS社も不要はものは全て切り離して買収することができ、買収金額も大幅に下げることができました。
このように売り手が会社の全てではなく、一部の事業部門やグループ会社の一社を他社に売却することを「カーブアウト型のM&A」と言います。
 
 
【事例③】
カーブアウト型のM&Aの中でも「一部店舗の売却・買収」といったものがあります。これはパチンコホール業界で多く実施しているものですが、5店舗展開しているパチンコホールがあって、その中で比較的他社に売却しやすい店舗のみを売却するというものです。パチンコホール業界は業界に対する法規制が厳しくなっており、業界にも大きな影響が出ています。5店舗を中途半端に運営するよりも、
・比較的高く売却できる店舗を売却して、売却益を得る

・その売却益で不採算な店舗を閉める(閉めるにもお金がかかるので)

・投資をすれば業績の上がる店舗に投資をしてそこの収益を上げる

・パチンコホールとしての営業は厳しいが他業種に賃借することで家賃収益が得れる店舗は閉めて他業種に賃借する。
結果、5店舗営業してたパチンコホールが、
 
・一店舗売却
・一店舗閉店
・二店舗に集中投資
・一店舗を他業種に賃借
・2店舗に集約して営業強化
 
というようなスキームが作れました。
これらの場合は買い手である企業側からしても会社全てを買収するのではなく、欲しい店舗や事業のみを買収できるので(これをM&A用語で「チェリーピック」と呼びます)大きなメリットがあります。
 
 

■事業売却については誰に相談したらよいのか?

 
会社売却であれば株式そのものの売却なので一般的な会計事務所等でも対応できますが、事業売却は売却する事業の価値そのものの価値を法人と切り離して算定する必要があり、そのスキームは少々複雑ですので経験のある会計事務所やそこに長けたM&Aの会社に相談するべきです。
また、検討段階で重要ことは「必要以上に多くの人に相談をしない」ということです。事業を売却するとなると様々な「利害」が生じます。特に同じ会社にいる従業員が売却される事業部門にいる場合は別の会社に転籍するということで社内に話が漏れてしまうと混乱をきたしまし、それは取引先も同様ですので信頼できる会社に相談して、極秘裏に進める必要があります。

メールマガジンの一覧へ
このメルマガの配信を希望する
事業承継・M&Aに関するお問合せをする