年商200億の老舗チェーンは、なぜ、『好調時』にM&A売却を決断したのか?

年商200億円の老舗チェーン株式会社藤光は、神奈川県で9店舗のパチンコホールを経営。貸玉料金の低価格化、競合出店、パチンコ遊技台の価格上昇などの影響で一時期赤字に陥りましたが、経営の“見える化”による現状把握の徹底や、業務改善の結果、黒字化へ「V字回復」した企業です。
 
大手チェーンが狙わない商圏の店舗買収や、不振店再生のノウハウがあり、今後も買収を含む成長戦略を視野に「10年後の経営計画」を策定しました。また、実行にあたり、県内全てのパチンコホールを調査し、買収候補の店舗をピックアップしました。これらは“外部資源活用型”の成長戦略と言われるもので、“自助努力型”の成長戦略と比べると、「より短時間に大きな成果を狙う」戦略となります。
 
現在、積極的なM&Aで規模拡大を目指す企業は、外部資源活用型の成長戦略を採用する企業ですが、藤光の経営計画も同様の成長戦略を採用したものでした。その背景には、大手チェーンの出店や法規制などの影響から、「既存店の現状維持では限界を迎える」という危機感から来るものでした。
 
経営計画では「10年後のキャッシュフロー」を予測しました。法規制や競合出店などの影響で予想される既存店の売上減に対して、M&A買収による経営計画を策定しました。試算の結果、「10年後の経営は可能」の見通しを持つ事となりましたが、一方で、財務状況や資金力などの面で「余力を感じる」結果になりませんでした。
 
経営者には持続的成長を目指すミッションがありますが、持続的成長を支えるための人材や財務などの「余力」が必要となります。藤光においては、「10年後は可能でも、その先もホール事業を続けるだけの余力が残っているだろうか?」という疑問が生まれてきました。
 
また、ホール事業による持続的成長に限界があるなら、「好調時に売却する方が高い金額を得る結果となり、次なる成長戦略へ資金を向ける事が出来る」という決断に至りました。弊社にご相談を頂いたのはその頃の時期でした。
 
当初、金融機関系のM&A会社に売却を依頼し、関東の主要チェーン数社に打診しましたが、「買いたたき」の姿勢で来られました。特に、近隣の会社は、会社の強みや価値を見ようとせず、金額だけ安くしろと交渉される結果となりました。また、業界に詳しいアドバイザーではなかったため、細かいニュアンスが売り手と買い手の間で上手く伝わらず、「伝言ゲーム」となってしまいました。結果、金融機関系M&A会社では成果が出ませんでした。
 
次に、弊社が相談を受けました。金融機関系M&A会社による失敗を踏まえ、アプローチ先には県内企業以外に出店意欲の高い県外企業を加えました。また、情報漏洩を防ぐため短めの3か月間の売却期間を設定し、入札方式の採用に加え、意向表明までの必要資料とDD時の必要資料を事前に整理し「どの時点のどの資料の開示が有効か?」を検討した上で、売手買手共に透明性の高い手続きを試みました。その結果、西日本の全国上位グループのチェーン店が浮上しました。
 
提示された条件は検討可能なものでしたが、西日本の会社は当初NGでした。理由は「関東の会社の西日本の会社に対する漠然としたイメージ」です。「買いたたかれるのではないか?」、「従業員全員クビにするのではないか?」などの質問を受けましたが、トップ面談をした時のトップ同士の会話でお互い「信用出来る相手」と確信する結果となりました。
 
その後、会社分割の手続期間中から実務責任者による交流がスタートし、双方理解が深まりました。そして、無事にクロージングを迎えました。
 
クロージング後の同年8月には、ギャンブル依存対策と射幸性抑制を目的とした風営法改正規則が公布され、翌年2月より施行となりました。「10年後の見通しは持てたが、その先や外部環境の変化に対応出来る自信がなかった」とのコメントについて、今、まさに現実的な課題として浮上している事を思うと、あらためて驚かされるところがあります。
 
いずれの事業も10年先の見通しを持つことは出来ないかもしれません。ただ、外部環境の変化など不測の出来事による影響が起きた場合に自社は耐える事が出来るのか?という問いを経営計画の中で冷静に見ておく必要はあるのではないでしょうか。また、仮に耐える事が出来ないと判断した場合には、業績が悪くなる前に「売手有利のM&A」を検討する必要があるかもしれません。
 
 
金融・M&A支援部
M&A事業承継グループ
グループマネージャー
平野 孝

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