~デューデリから未来へ向けて~「中小企業における新規事業投資基準について」Vol.82

新規事業は、この連載で何度か取り上げてきた内容。今年に入り、大手からの新規事業立上案件は、潮が引くように急速に無くなった。これは、景気の先行き見通しが悪くなった関係と思われる。しかしながら、中小企業においては、まだまだ、新規事業への進出意欲は旺盛で、当社への問合せも続いている。そこで、今回、この新規事業、特に中小企業が実施する際のポイントを記載する。

 

まず、既存事業と新規事業投資の判断軸は違うという認識が必要。この圧倒的違いは、その事業への経験値である。既存事業の場合、ある程度、成否は判断できるが、新規事業の場合、今まで経験のない領域に投資する訳である。そのため、これまで培ってきた経験はあまり参考にならない。

 

この新規事業で必要な要素を挙げると、以下の3点となる。

・立ち上げるトップの力

・ビジネスモデル

・資金対応

 

この中で何よりも重要なことは、「トップの力」。特に中小企業においては、トップが既存事業や全体管理を実施しないといけないため、トップ以外の立上人材が必要となる。そのため、多くの企業では、新規事業にエース人材を投入する。そこでの注意点は、エース人材であっても、その人が無理やりやらされている感を持っている場合、上手いかない。自ら進んで、その事業に命懸けで望む心構えがないと、まず新規事業は成立しない。

 

また、そのエース人材も既存事業での成功者であり、新規事業はほとんどの場合、未経験者であるという事実も認識しておく必要がある。どこまでいっても中小における新規事業の成功確率は、10に1つか2つ程度。ただし、本業との兼ね合いが強い事業に関しては、既存事業のリソースが利用できるため、成功確率は格段に上がる。

 

さて、その上で投資判断。コンサルタントとしての経験上からは、中小企業における新規事業は以下が目安となる。

・黒字化は2年以内

・投資回収は5年以内

 

まず、収益であるが、1年目の赤字は覚悟するとして、2年目は黒字化すべき。ちなみに3年たっても赤字の事業は、5年たっても赤字の場合がほとんどと心得るべきである。また、投資回収は、よほど先が見えているもの以外、5年を基準とすべき。既存事業ならまだしも、まったく見えないものに対して、投資回収が5年以上かかるようでは、中小企業の投資としては失格。

 

さらに、この投資基準以上に重要なものがある。それが、撤退基準。実は、事業を立ち上げることや、新しい会社をつくることは正直簡単。しかし、上手く行かないときに撤退できるかどうかの方が重要である。そのため、スタート時期に撤退基準を明確化させることが何よりも重要である。

 

この撤退基準を定めずにスタートさせると、最初の投資額の被害だけでなく、継続的に資金を投入していく必要があり、すぐに大きな金額となる。その資金があれば、本業をもっと強化できるというのは多くの企業で見られる実態。最悪の場合、本業でのトラブルと新規事業への投資が重なり、倒産という事例も再生の現場で何度も見てきた。

 

撤退は、本当に難しいものである。会社のエース人材を投入し、そこに人を雇用しているという事実が、経営者の目を曇らせ、判断を遅らせる。特にエース人材を傷つけたくないという意識が強く働く。そのため、はじめにデットラインを決め、その内容を新規事業実施担当トップとも合意しておくことが何より重要。そして、ダメになった時点で引くというのが重要であることを、覚えておいてほしい。

 

全ての経営は、現状を的確に認識(デューデリジェンス)し、未来に向けた“今の変革”からはじまる。

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